東日本大震災後の計画停電や原子力災害等の影響により、企業の中には関西方面等への事業機能の一部移転の動きが見られ、東京一極集中のあり方が見直されつつあるようです。
これに伴い、今まで都内に集中していた事業所の統廃合が進む可能性が考えられますが、この統廃合について「不動産仕分け」という観点から考えてみるのは如何でしょうか。
一時期、「事業仕分け」という言葉が世間を賑わせておりましたが、「不動産仕分け」も自社所有している不動産の仕分けを行うことにより、非効率的な利用がされている不動産を明らかにします。
そして、非効率的な利用をしている不動産に対処することにより、経営資源の効率化や事業収入の増加に寄与することが可能となります。
実際の不動産仕分けにあたっては、様々な観点から検討する必要が有りますが、ここでは紙面の都合上、一部の観点に絞って話を進めていきたいと思います。
まず、不動産仕分けを検討する際に、対象となる不動産に関する分析が必要になってくるわけですが、その分析において重要なことの一つに、対象となる不動産の利用方法として経済価値が一番高くなる利用方法(以下、「最有効使用」という。)を判定することが有ります。
なぜならば、経済価値が一番高くなる利用方法は、効率的な不動産の利用をしていると考えられるからです。
そこで、この最有効使用を判定する過程において、主に次のような分析をしていく必要が有ります。
・対象不動産周辺の標準的な利用方法は何か
・対象不動産周辺の売買市場動向
・対象不動産周辺の賃貸市場動向
・対象不動産の市場における競争力
以上のような分析を進めていくことで、対象となる不動産の最有効使用が明らかになり、対象不動産を
・自社利用し続ける
・第三者に売却する ・第三者に賃貸する
・第三者に売却後、当該ビルを賃貸利用に切り替える
等の仕分け方針を決定することが可能となります。
いずれの仕分け方針を採用するのかについては、他の事業拠点との関係、税金の問題、様々なリスク要因等、実際にはさらに多方面から検討していく必要が有りますが、最有効使用という観点を重視して仕分けが行われた場合には、既に述べたようにその不動産の経済価値が一番高い効率的な利用方法になっていると言えます。
実は、不動産の最有効使用を判定するという作業は、不動産の鑑定評価を行う過程において普段から行っており、その意味において不動産仕分け作業を私達不動産鑑定士がお手伝いすることが可能であるとも言えます。
我が国では、平成18年に固定資産の減損会計が導入されて以降、棚卸資産、賃貸等不動産についても順次、公正価値の把握のために鑑定評価が行われるようになってきました。
今後、国際会計基準が導入された場合には、不動産などの固定資産を公正価値で評価する必要性が拡大してくることも考えられます。そして、公正価値で評価された不動産の価値変動が財務諸表に反映されることになりますので、公正価値が低い不動産(=最有効使用ではない不動産)が存在している場合には、財務諸表にマイナスの影響を与える可能性が出てくることになります。
したがって、自社所有している不動産の最有効使用が重要になると思われますので、「不動産仕分け」の必要性も高まるのではないかと予想されます。
また、「不動産仕分け」を戦略的に行うためにも企業で不動産を管理している部門の重要性もより高くなっていくのではないでしょうか。
(執筆者:不動産鑑定士 西田直樹)
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